九月の断章

日々の研究や日常から感じたり考えたりしたことを綴っています。

ハイデルベルク① 月曜朝のカオス

ハイデルベルクの朝です。

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今日はドイツ語コースの初日。

初日は8:30に来てと言われていたので、ショコブロートヒェンを齧りながらだいたいその時間に行くと、昨日車で知り合った中国人の女の子がいて挨拶をする。

「レベルはどこ?」

「これから確認するところ」

と答えて、受付に声をかける。クラスのレベル確認と書面にサインするやりとりで待たされて、時間はすでに授業の始まる9時ころを回っていた。

同じ建物内だが、僕のクラスの教室とオフィスは別棟になっていた。同年代くらいのリアルな熊のプリントTシャツを着たお姉さんに連れられ教室に着いたのは9時10分過ぎくらい? 

やっと授業受けられると思いながら座ろうとして隣の女の子を見ると、テキストを開いている。

そうだ、テキスト借りてこよう。

まだ持ってないよ!慌てて教室を出て、オフィスに戻ろうとする熊柄のお姉さんを捕まえてそう伝えると、英語でなんやかやバーっと言われる。とりあえず待っててと言ってるのはわかったので、対応してくれるのかと一瞬胸を撫で下ろし、大人しくお姉さんを見送りかけたけど、いやお姉さん僕の使う教科書のレベル知らないよね!?って気付いたので結局オフィスまで教科書をレンタルしに行って、再度教室に戻ったのが9:30くらい。戻ったオフィスでは、受付の人に何歳か聞かれて「12歳。。」と泣き声で答える女の子が、大丈夫だよと宥められているところも目撃。

毎週月曜日が新入生の受け入れ日なんだけど、いつもこんなにここは荒れているのか。

 

12:15、初日の授業終了。

休憩時間にコーヒーマシンで買った大して美味しくないカフェマキアートを飲みながら、分からなくても吸収しようと授業を受けていた。

途中で先生から、クラスの生徒の名前とサインの書いてある紙に、僕にも書くように渡される。見るとみんなサインがカッコいい。

そうか、サインって筆記体で書けばいいというよりは、その人本人のオリジナリティの高いデザインのサインをみんな作るものなんだな、と気付いて授業中に考えていた。

「恵」を「g」として書いてみたのですが、漢字を取り入れたデザインお洒落じゃないですか??

 

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いや、授業はわかるところはちゃんと聞いてましたから!

そして隣の女の子の髪型が、襟足部分を刈り上げていたのでかっこよくて思わず描いてしまった。

初回の授業はまあ全部は分からなくてもまあこんなものでしょう、という感じでやっていきます。結局は自分で勉強するのが大事なんだ。

 

と思って桃ジュースをお供にカフェで今日の復習。

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後でスーパーに出かけた帰り、夕方にもピスタチオのアイスを食べる。

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だってカオスな初日を乗り切ったんだから、お疲れ様ということで。

毎日食べたら太るだろうな…と思うので、月曜日と木曜日をアイスを食べていい日にしようと決めておく。

そうしたら日曜がおわっても月曜はアイスが食べれるし、2日乗り切ればアイスが食べられるし、金曜が終われば土日でお休みだし、頑張れる!

 

*

 

さて、スーパーに行ってみた。

だいたいいつも自炊ペキスタリアン(魚介は食べるベジタリアン)をやってるので、スーパーでは肉の代わりにおかずになりそうなものを探したら、魚の缶詰めくらいしか見つからなかったので買ってみる。ちなみに日本では納豆や豆腐、魚介製品をよく食べている。

だがこちらは肉食文化の強い反面、ベジタリアンヴィーガンメニューも多い。なんていうかスーパーの品揃えとしては、ハムとか野菜とか果物とかチーズ、バターなど素材がまるごと置いてあるだけで日本によくある惣菜のような調理済みのものはないのである。

 

スーパーから帰宅し、寮の共同キッチンで、オーストラリアから来た女の子が料理を盛り付けている傍で、僕は魚の缶詰めをおかずにご飯を一口食べてみた。

缶詰めは酢漬けの魚で、魚の味よりもただただ酸味と唐辛子のピリ辛さが広がる。。。(賢者タイム)

そうだ、僕には醤油があるじゃないか。

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こうして僕は思いがけずしてSushiを食べることができたのであった。

いやあ、出国当日にR1(小さくて丁度いいサイズだったので)を3本一気飲みして冷蔵庫の中身救済事業に当たった甲斐がありましね!

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さて宿題の残りを片付けて、明日も張り切ってがんばろう:)

ベルギー滞在記① ルーヴェンの中の第一次世界大戦

今回のベルギー滞在の拠点としたのがルーヴェンというブリュッセルから見て東隣の都市。

さあ、ルーヴェンヘ。

 

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ガラス張りのモダンなルーヴェンの駅で降りると、最初に目に入るのが、大きな記念塔だ。

 

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プレートの右側には市民の、左側には兵士として、第一次世界大戦で亡くなったルーヴェンの人々の名前が刻まれている。さらに壁画が塔を取り囲む。

 

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駅とこの記念塔を背に大通りを真っ直ぐ進んでみよう。街並みは煉瓦造りの建物が並んでいて外観は綺麗だが、実は軒並み第一次世界大戦後に建て直されており、建物には再建された年が刻んである。

ベルギーは、第一次世界大戦が勃発すると、シェリーフェン・プランのもとドイツ軍(ドイツ帝国)によって侵攻され、そして多くの街や古い建物が破壊されたためだ。

 

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したがって、ルーヴェンは街全体が第一次世界大戦の記念碑のようになっているとも言える。

 

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▲ちなみにこれは教えてもらった、Pinocchioと看板にあるお店の後ろの家が、壊されずに残っている古い建物だそう。(確か16世紀くらい〜だったと聞いた気が)

ゆえによく見ると少し歪んでいる。

ここはもうGrote Marktという大広場のあたりで、旧市庁舎が建っている。▼

 

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美しい旧市庁舎は15世紀末に建てられたゴシック様式ルーヴェンへドイツ軍が進軍した際には彼らに使用されたため、旧市庁舎は壊されずに済んだという。

しかし近くの建物には、ドイツ軍によって焼かれた跡も残っていた。

 

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▼旧市庁舎の向かいにあるこのカフェなんだが。。明らかに植民地主義時代に作られたデザインで、黒人であろう女性がかたどられている。


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実はベルギーは、1962年までコンゴを植民地として持っていた。それが多民族が暮らす背景ともなっている。


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▲可愛くて撮った建物

 

また、近くにはルーヴェンカトリック大学の大学図書館も。

2度の世界大戦で被害を受けており、今の図書館もその後再建されたもの。

第一次世界大戦が始まってすぐ、ドイツ軍の攻撃によって焼失し、各国に図書の寄贈を呼びかけたそう。

建物には図書を寄贈した国のシンボルが装飾されていて、日本もその一つで、屋根には菊の御紋を抱えた狛犬が鎮座している。

 

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図書館の中も少し見た。図書館再建に貢献したアメリカのフーバー大統領の像はその存在感があった。

メモ:シヴェルブシュの『図書館炎上―二つの世界大戦とルーヴァン大学図書館』という本があるようなので、今度探してみよう。。

 

あと、写真撮り忘れたのだが、大学図書館の前には『昆虫記』を書いたファーブルの曾孫で芸術家のヤン・ファーブルの作品、コガネムシの刺さった「トーテム」がある。

確か大学への皮肉も込められているんだったか。受け取る意味は人それぞれあるだろうけども、古い建物を再建した街並みに突如現れるトーテムのシュールさのコントラストに目を引かれるものがあった。

 

*****

 

はい!ベルギーでの初ビールのお時間です。

Kwakというグラスが特徴的なベルギービール。すっきり飲みやすい。▼

 

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▲そしてサラダがでかい。(僕が頼んだのはギリシャ風のでイカフリットがのってる。)

ここのDe Blauwe Schuitというレストランにはなんと孔雀が放し飼いになっていた。

天気のいい日は、こちらではだいたいみんな外で食べている。

 

僕は心地よい午後の風に吹かれながらビールを飲み干した。

空の大冒険

こんばんは。(現地時間)

夜に出発する便で日本を発ち、寝て・ご飯食べて・映画観て、をひたすら繰り返したのち、現地時間の夜まで起きているために睡魔と戦っている永月です。(その間に書く)

ドイツ滞在記をこのブログに付けていこうと思っているのですが、とりあえず最初に眠い頭で書くのは、ブリュッセルにたどり着くまでの旅の思い出です。

 

さていよいよ渡独の日。。!を迎えたわけですが、調査旅行のため初めベルギーはブリュッセルに向かいます。

(実は成田へ着くまでになんやかんやありましたが、そこは割愛。言い残しておくことがあるとするならば、荷物の準備は早めにしておこうってことです。あと、トランクが重過ぎるならタクシーで駅まで行っても良かった。空港に辿り着くまでに頑張った結果、腕は指から鎖骨あたりまで筋肉痛だし、トランクを蹴って進むシーンもあったので膝は痣になっております。)

 

さて、今回の旅程を確認しよう。

目的地はブリュッセルで、乗り換えはイスタンブール。今回使う航空会社はターキッシュ・エアラインズ。同じドイツ語のクラスメートに、ご飯が美味しいという噂を聞きましたのでちょっと楽しみにしていた。

トルコといえば:6月の学期まで一緒のドイツ語クラスにトルコ人のお母さんの方がいて、もらったトルコのもちもちしたお菓子やチーズのパンは美味しかったし、

そもそも世界三大料理の一つはトルコ料理だ。というわけで考えてみれば確かに美味しそう。

さて、搭乗。

僕は期待を胸に飛行機に乗り込んだ。

ターキッシュ・エアラインズ、まず面白かったのが、レゴのセーフティビデオ。

https://youtu.be/C2hCN6cVuqM

https://youtu.be/MqbFPn_FwaE

機内で見たのは2番目のものだが、1作目があったようなのでリンクを貼っておいた。

可愛いながらもストーリーの合間合間にきちんと挟まれる飛行機での注意事項は、普通のムービーと変わらなかったように思うが、アニメになっていると思わず見入ってしまったので、良いアイディアだなと思った。

ちなみに僕は、Baliでのレゴでの水と砂の表現と、緊急脱出時の滑り台から船のスロープへの接続が良くてBaliのシーンが推しである。モスクワも可愛いけど。

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さてお待ちかねのおゆはんである。

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マッシュポテトも好きだし魚も美味しかったが、右上の謎のきゅうりのヨーグルトみたいなものはちょっと青臭くて全部は食べきれなかった。そういうサラダなんだろうか、謎の食べ物だった。。

 

映画を観つつ、寝つつ、トランクを引きずって疲れた身体を引きずって、なんだかんだで(たぶん)12時間ほどのフライトを終えた。

動く歩道へ向かうところで、同じ飛行機から降りたバイオリンを背負った方に、「それなんの楽器ですか?」と声をかけられた。

同年代かちょっと上くらいの、浅黒い肌をした眼鏡の女性だった。

「ホルンです、どちらへ行かれるんですか?」

これからフェスでパフォーマンスをするために、イギリスのエディンバラへ向かうという。彼女はストリートミュージシャンだった。

まじか。

音楽で、ストリートパフォーマンス一本で食べている人の存在を初めて認識したし、実際に話をした。

彼女曰く、留学中に働いていたレストランでの時給よりも、勧められて初めてやった路上パフォーマンスでの時給のほうが良かったのが、きっかけだそうだ。

同じ音楽でも、見慣れた楽器でも、普段オケにいると全く知らなかった新しい世界が開けたように感じた。

しかし彼女はみんなに人気がある曲をやるので、反対に自分のやりたい曲をやる人たちはアーティストであり、そういうのはすごいとも思うそうだ。

彼女は世界中を飛び回って仕事をしているそうで、世界中に友人がいるようだった。で、ストリートパフォーマンス仲間たちがいることも何となくわかった。

そういう生き方があるんだなー。

せっかくなので彼女の演奏のリンクはこちら。https://youtu.be/YUwcPufQ3ik

 

路上パフォーマーな彼女とおしゃべりして乗り換えの待ち時間を潰し、見たイスタンブールの日の出。▼

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▲見送った後、スターバックスで一休み。

 

結局5時ほど待って、無事にブリュッセル行きの飛行機に乗り込む。

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▲朝食その2。最初のフライトでも朝食その1を食べていた。なんか、ずっと食べてない?

しかし丸のままマッシュルームがめちゃくちゃうまい。あと、オムレツにケチャップじゃなくて生かちょっと火を通したトマトを添えてるの、結構イケてる。これやろうかな。

 

そんなこんなで、前のフライトの時に途中まで見ていた映画の残りも見終えて、ブリュッセルへ。2回目のフライトは3時間くらいだった。

今回の空の旅で一番心配していたのが、(まだ帰りのチケットを買ってないし、事情の説明が面倒そうだった)入国審査だったのだが、意外とすんなりスタンプを押してもらえたので一安心であった。

 

そしてブリュッセルから、今回宿泊するルーヴェンへ電車で移動。

ここまでで、丸1日がかりの大冒険であった。

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さて、こちらは22時を前にして空が明るいけど、睡魔に耐えられなさそうなので、明日に備えて寝ます。出発前の夜も寝てないので3徹くらいのフェーズに入ってきた。

今日はすでに、ルーヴェンを一通り見たし、明日はゲントへ出かけます。

ルーヴェンとゲントの話はまた。

それではおやすみなさい。

 

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おまけ:今回観た映画

インセプション

めっっっっちゃくちゃ面白かった。状況理解のために頭も心もすごい使うし、どんでん返しというよりはむしろどんどん新しい事実がわかってそれらが繋がっていくし、アクションとしても終わる直前までドキドキものであった。

気になるシーンや伏線回収のために何箇所か見直したりするくらいには面白かった。何かと示唆的。よい。

 

パシフィック・リム

一言で言うならばThe OTAKU Action。

僕はほかのレビュー見てないし事前知識もゼロでもすでに言われていることだと思うが、明らかに日本の特撮もの、ロボットもののアニメ(とくにエヴァを彷彿とさせられた)に影響を受けているというか、むしろモチーフにして作りました感。だからか、どこか中二病感が溢れるセリフ回しと展開。ただしアクションとしては面白い。

インセプションの後に観てしまったので深みは薄く感じるが、パシフィックリムは単純に、そしてある程度の重みを持って楽しめるアクションだ。(御都合主義は好きじゃないので)

しかし、単純と言っても、インセプションでも主題の一つであった「記憶」は、人間の複雑怪奇なもの。その記憶の同調というアイディアはパシフィックリムの物語に深みを与えていたことも、同時にはっきりとわかることができた。

 

 

 

009への愛を語る。

こんにちは。梅雨ですね☔️

さてこの度、ペンネーム(=研究以外)にてトークイベントを企画していただくことになりました。
テーマは「サイボーグ009(ゼロゼロナイン)」!

 

★詳細はこちら↓↓

Facebookhttps://www.facebook.com/events/952447801592644/?ti=ia

登録フォーム:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScYlSIydAu_r8W7-cenCuygUKf8XpmDs9sM7S9gC5YN0LGRGg/viewform

 

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僕自身は「サイボーグ009」のファンは、忘れもしない中3の10月からやっていますが、同じ世代では知らない人がほとんどかなという印象です。もしわかる人がいたら語りたい。
作者の石ノ森章太郎といえば、仮面ライダーや、レンジャーものシリーズの漫画原作者でもあります。特撮好きだけど知らなかったって人も、原作:石ノ森章太郎(か石森プロ)ってクレジットを実は見たことあるはずです。

 

そんな石ノ森によってか描かれたサイボーグ009は、アニメや漫画好きな人にもぜひ知ってほしい作品です。
作品の魅力はさることながら、石ノ森先生にはめちゃくちゃ先見の明があるので、”サイボーグもの”、”能力もの”や、”キャラクター萌え”などなどあらゆる要素の草分け的作品としても面白いと思いますし、
平成に入ってからも繰り返しリメイクされており、 漫画・アニメ史の観点からも興味深いと思います。
リメイク作品では、「攻殻機動隊」の神山健治が監督したことも。

 

サイボーグ009」は、一言でいうなら9人のサイボーグ戦士たちが、戦争のための試作品として自分たちをサイボーグに改造した悪の組織と、人知れず戦う物語です。
しかし戦う相手は当初から登場していた悪の組織だけでなく、後から「天使」「神」などのモチーフも登場し、「悪」とは何かについても哲学的な問いを投げかけられます。

 

トークを企画していただいたkamosさんは、個人が日常の中で感じる葛藤の解決など卑近なものまで含めて、「平和」を広く考える集まりだそうです。
今回取り上げる「サイボーグ009」は、根底に流れるテーマとして「平和」と「戦うこと」を意識し、「善とは、悪とは何か?」を問う漫画作品であり、現代でも繰り返しリメイクされています。

根底にはそのようなテーマがありますが、まずはこの作品自体の興味を持っていただけるように紹介、お話できればと思っています。
その上で作品としてのメッセージや、なぜこのようなメッセージや問題意識がでてきたのか、といった作品の生まれた背景などを読み解いていきます。

 

実はこの作品、僕が「ドイツ」という国に興味を持った、最初のきっかけにもなりました。
サイボーグ009といえば、その名の通り仲間たちは9人いるのですが、実はメンバーのバックグラウンドが全員違っていて、とてもインターナショナル。
「009?007じゃなくて?」というくらいの認識の方でも50代より上の世代だったら、片目に髪のかかる主人公009のビジュアルはなんとなくでも見覚えがある方もいるのではないでしょうか。

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涙がつたう009の横顔

 

こちらからオープニングが見られます。→https://youtu.be/ARhmCPmapnU

[✳︎79-80年に放送されたカラー版アニメ(通称 新ゼロ)のオープニング。009の横顔を流れる一筋の涙のビジュアルは、一躍視聴者へインパクトを与えたのではないでしょうか。
ちなみに10歳くらいの時に当時の放送を見ていた世代を計算するとちょうどいま50歳くらいということにジェネレーションギャップ的な衝撃を、今、受けました……。なるほど、今年は新ゼロ40周年なんですね。
まあ僕自身、平成版アニメ(通称 平ゼロ)から入った世代ではありますが、新ゼロは高校生の時に見ました。新ゼロには制作スタッフの作品愛が詰まっています。新ゼロ見ていた方もこれから見る方もよければいつか語りましょう。]

 

9人のサイボーグのなかでも僕がめちゃくちゃハマってしまったキャラクターが、004。
ドイツ人。
三十路。

髪型はキノコ。
名前はアルベルト・ハインリヒ。
てかどっちもファーストネームなんですが。ショー先生、ネーミング適当すぎるよ…。(だがそこがいい)

 

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ゲストヒロインに冷たく当たる004の茶番

彼は東ドイツにバックグラウンドがあります。
そこで僕は、彼がいた東ドイツがどんな国だったのか知りたくなったのが、ドイツに関心を抱いたきっかけでした。
ちなみに高校生になって初めて買ったドイツ本、東ドイツの「モノ」を少々興奮を抑えきれていない語り口で紹介していく『ニセドイツ』の著者がいまの指導教員であるのは、なんの因果かと思います。

 

ただ、今ドイツ史やっているのはそんなに単線的な帰結でもなく、学部時代には日本史もけっこう勉強していました。
無節操にそれ以外の分野にもいろいろと興味はありましたが、歴史学の立場からのものごとの考え方はそれなりに学んでおり、
歴史学の視点からものごとを見ると、むかしハマった作品も当初のオタク的な見方だけでなく、新たな側面も見えるようになってきました。

 

さて、サイボーグ009の連載開始当時は、1960年代。冷戦の溝が冷え込む時期でありました。
ハインリヒやほかのキャラクターの設定が当時の時代状況を反映している点でも、特に1960年代当時の日本での出来事やものの見え方がわかって面白いのですが、
さらにいうと、当時の日本の状況を踏まえると、この作品自体の物語、コンセプトとしても、相当に時代的文脈に依存して生み出されたということがわかります。

 

さらに、サイボーグ009は、現在に至るまで繰り返しリメイクされ続けており、とくに近年では3Dアニメの実験の場にもなっていると思います。
また、とくに2012年以降のリメイク映画は、すでに原作者がいない時代に原作を離れ、現代に合わせた設定やストーリーが施されており、アニメ史の中だけでなく、現代における時代状況の反映やリメイクの意味なども考察の対象として興味深いと思われます。


2012年のリメイク映画「RE:Cyborg 009」のキャラデザ発表当時、これまでのデザインとめちゃくちゃ違いすぎて(例えばハインリヒの髪型がキノコじゃなくなるとかね)、どれだけファンの間で議論され、ネタにされ、そうして受け入れられてきたことか。

 

現代でも繰り返しリメイクされるサイボーグ009

 

そこには9人の個性豊かなキャラクターの魅力もあり、

 

(古参の009ファンの方が言ってたけど、009は「キャラ萌え」の草分け的作品でもあるらしいです。
……

……わかります。
齢15にして三十路のドイツ人にどハマりした人間として全く否定できない。)

 

さらに「サイボーグ」という、近未来的な設定を1960年代当時に取り入れた石ノ森の先見性、
などなど、
現代でも色褪せることなく、いやむしろ現代においてこそ、その設定がよりコンテンツとして受け入れられるようになり、その現代で際立つようになった設定をリアリティを持って描けることこそ魅力となっているのではないでしょうか。

 

そしてより現代的なサイボーグ009から入っても、ぜひ原作の良さも知ってほしい。

 

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さて、ここまでは、序章。
009の魅力については、まだまだ全然話し足りない。

 

当日は、「サイボーグ009」のストーリー、テーマと時代的文脈を相互に読み解きます。
原作や映像も見ながら、各キャラクターのバックグラウンドについて、
さらに原作から歴代のアニメ、リメイク映画までの流れを見ていこうと思います。

 

まさにテクストとコンテクストを、参加者のみなさんと一緒に読んでいきたいと考えています。

 

というわけで、よかったらお暇な方は遊びに来てください。
萌えに身を任せていっぱい喋ってしまうだろうと思っていますが、ぜひいろんな人の感想も聞いたり、議論をしたりしたいです。
とくに昭和の作品なんか知らないという同年代の方もぜひ!!
単にアニメ、漫画好きという方でも、サイボーグという設定が、最新のリメイク映画ではどのように生かされ、描かれているのかも、めちゃくちゃ面白いと思います。

 

参加希望の方はブログ冒頭の登録フォームから申し込みください。
会場でお会いするのを楽しみにしております( * ॑˘ ॑* )

 

さわやかにいきたい。

さわやかな5月の風に吹かれて歩く度、現実の5月は好きだし、もはや5月という概念が好きだとおもう永月です。

この油画のような水を湛えた五月……。

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腰が痛い。

と唐突に痛み始めたのが3日前。

今週末は西洋史学会で静岡に行く予定なのですが、往復のバスで腰が死なないか、今からとても心配です。

 

というわけで本日、生まれたての子羊の如く震えながらようやく整体に行って、鍼を打ってもらいました(初)。

2、3年ぶりくらいに行ったのに整体のお兄さんが覚えていてくれて、お話しながらほっこりしました。ただし荷物が重すぎるので鞄の中身を捨てろと言われました。

心配してアドバイスをくれているのでありがたいことです。

 

たぶん僕はかなりのマルチタスカーで、常に同時にいろんなことをやろうとしてしてしまうので、出かける時にいろいろなタスクを鞄に詰め込んでしまうから、荷物が重いんですよね。

結局、1日出かけてるあいだにそんなに全部やる時間はなくて運搬業者してるだけになっちゃうんですけど。1個ずつ終わらせるのが吉ですよね。。(反省)

なんなら今夜も、ドイツ語の勉強と、TSUTAYAで借りた映画「グッバイ、レーニン!」(今さらでごめんなさい)を観なきゃいけないというタスクもあるのに、さらに今このブログを書いてますからね。ああ、ドイツ映画も観たいのいっぱいあるのにな。

この記事についでに、先週ゼミでようやく終わらせた、ヴィンクラー『自由と統一への長い道 Ⅰ』第7章ヴァイマル共和国編の報告のことも書きたいと思ったけど、それをやってたら宿題も映画も終わらんのでその話はまた今度書きます。

静岡に行くバスの中とかで。

 

というわけで、なんとか無事に静岡に行ってさわやかでごはん食べたいぜ!!

腰を治すようがんばります。

静岡に行くのが不安で楽しみな話でした。

タピオカと紙芝居

こんばんは。永月です。

10連休ですね。みなさんいかがお過ごしでしょうか。

 

もともとこのブログは書きたい記事(ファシズムの体験学習のレビュー)があったのが大きい理由で開設して、わりと真面目なスタンスでいたためにせっかくのブログという場をあまり活用できていなかったので、もっとラフに日記として更新していきたいと思っています。

その中で考えたことや学んだことも書けたらいいなくらいで。

ちなみに、今年はドイツにドイツ語を勉強しに行こうと思って目下のところ計画中ですが、せっかくなのでこのブログを使ってドイツ滞在記はつけようと思っています。ドイツに行くまでにも、ウォーミングアップ的に今まで形にできていなかった記事なんかもアップできたらいいかなと。

ほんとのところは昨日、「CMSな日々」ブログ(http://icucmsorchestra.blogspot.com/)に大学オケ現役のころ書いていた自分の記事を少しだけ読み直したら懐かしかったし、自分の書いた文章やその時の思考が時系列に見直せるってけっこういいなって思ったのですよ。ちなみに僕がブログマスターっていう、ほかの人に原稿を書かせたり自分で書いたりするお仕事をやってたのは2016年2月に登場してから2017年4月までです。僕は自分の文章もオケの人たちも好きなので、よかったら読んでみてください。

もちろん今でもCMSとかいうめちゃくちゃ上手なオケの活動の一端が垣間見られます。いやあ学生オケってアツくて良いものです。

 

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なぜか世間は年越しムードでしたが、僕は毎年のように一年で一番美しい季節だと信じている5月を迎え、連休の真っ只中にいました。

連休中、僕はというと、下北沢に遊びに行って、@Easeのタピオカミルクティを飲みながら紙芝居の鞍馬天狗(33話)とロボちゃん(2093話)を見ていました。

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鞍馬天狗は32話の途中から見ましたが、アイヌのひとと松前藩が戦っていました。

33話は、ちょっとよくわからないのですが何やらロシアと繋がっている敵との戦いで、おそらく基本的に勧善懲悪ものが描かれているようでした。

ロボちゃんに至っては、2092話までを知らないまま、いきなり2093話を聞くことに。

ロボちゃん、一言で感想を述べるなら、それは静かなるカオス。

ていうかロボちゃん出てきてないし。

冒頭は船が何かガスに包まれていて、宇宙人が客に襲いかかる!と思いきや、頭をペロペロし始める!(?)  最終的に、みんな髪の毛がなくなって悲しむ…という超展開。謎過ぎる。

 

内容はともかく、物語をいかに鮮やかに口頭で伝えるかという点について。

口伝で物語る文化というのは、今はなかなか身近にないけどかなりの高等技術だなと率直に思いました。

紙芝居なので、効果音としてお姉さんは確か台を叩いていたのか馬の走る音を立てたり、馬の鳴き真似をしたりしていました。さらに小さな太鼓があって、太鼓の音はいろいろな演出に使われていました。

 

それでなんとなく思い出したのは大門さんの『語る歴史、聞く歴史』で読んだ、明治、大正の生活世界では重要だった「話し上手」で、こんな感じだったのかなあと近いイメージを彷彿とさせられました。もちろん、「話し上手」とは写真のない時代、身振り手振りを交えて話だけで情景をありありと思い浮かべさせるような描写をする人を言うので、絵がある紙芝居とはまた異なるものだと思います。

ちなみにこういう外で見かける紙芝居は、「街頭紙芝居」というもので、このワードで調べると研究も出てくるようです。

多くの方が子どものころ保育園や幼稚園でお世話になったであろう幼児紙芝居は、低劣、俗悪などと言われていたこの街頭紙芝居から保育用に派生したものだそうです。

ちなみに街頭紙芝居はどこから批判されていたのか気になりますが、街角で子どもたちが接するのにその内容が……ということのようです。(とりあえずはこの論文を参考にしました。https://www.jstage.jst.go.jp/article/tfu/10/0/10_39/_article/-char/ja/ )

 

さて、続きはただの感想ということで聞いてください。

さいきん、山下泰平さんの『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』という本が出版されました。

まだぱらぱらと目を通したくらいなのですが、終章はちゃんと読んで、めちゃくちゃ良いことが書いてあるのでぜひそこだけでも読んでほしい本です。

この記事を書いていて、この本(まいボコ)を思い出したのですがそれは、「鞍馬天狗」が昭和の街頭紙芝居であり、まさにまいボコでさまざま紹介されているような、ヒーローの活躍する奇想天外な戦いが繰り広げられているところでした。

というか明治の娯楽小説に登場してきたさまざまな要素や形式が、そのあともわれわれの知っている日本の小説や漫画、アニメにも入り込んできているんだよ、というのがまいボコの教えてくれることの一つなので、当然といえば当然で、この街頭紙芝居にも色濃く反映されていただけのこととも言えるのかなと思いました。

 

そんなこんなで楽しい休日を過ごした永月でした。

みなさんも引き続きよいGWを。

gemütlichな空間とおちゃめなオーナー

世間はクリスマスイブ。夜空には煌めくイルミネーション。

僕はといえは、新橋の雑居ビルに閉じ込められていた——。

 

 

 

 

この日、僕はとある二つのギャラリーに行くことにした。

ひとつめに、西荻窪のstudio Teというギャラリーの個展を訪れた。西荻窪にはよくいるけども、こちらのギャラリーを訪れるのは初めてで、周辺をすこし彷徨った末に、見つけたのは赤い籠と木々の茂みに続く道。

隠れ家風味

ちょっとワクワクしながら小道へ分け入ると、素敵な灯りの灯った空間へ繋がっていた。


ドキドキしながらドアを開けると、高い天井と浮かんだランプ、そしてランプを作った造形作家のsionさんやギャラリーのオーナーさんが出迎えてくれた。

ランプの展示はそれ自体が隠れ家みたいなあたたかい空間を作るなか、赤ワインとお料理をいただくことに。



わんたん

影が素敵

ガラスに光が映り、光が奥行きを持って幻想的

初めて来たのにオープンでフレンドリーで、展示だけではなくなんて素敵な空間なんだ。

そして手作りの料理がものすごく美味しいのだった。

gemütlichな空間——

という言葉が頭にふと浮かんだ。

ドイツ語で、居心地の良い、という意味の言葉。

それはぴったりな表現に思え、gemütmich、と口の中で静かに繰り返しながら、ずっと眺めていたかった。

 

 

 

 

ドイツ語のgemütlich という言葉がぴったりくるほどに居心地が良過ぎて、西荻窪のstudio Teには思っていたよりも長居してしまったのだが、じつはこの日、もうひとつ最終日を迎える個展へ行きたかったのだ。


18時頃に西荻窪を出ると、電車で目的地の新橋へ着くには、うまく乗り継ぎできても18時半過ぎだろう。ギャラリーの時間は19時までだ。

一瞬、行くべきか迷う。

それでも、少しでも作品が見られれば嬉しいし、まあいっか。別にもともと何の予定もないのだし、と思い直し、新橋へ向かうことにした。

クリスマスだろうが予定がなければ失うものもない。

 

 

 

 

新橋に着き、目的のギャラリーがあるらしいビルの前まで来た。一階に入るドトールの店員さんにどこから登るのか聞き、ほとんど終わりかけの時間にやっとギャラリーまで辿り着く。

ドアを開けると鳥の鳴き声がぴよぴよと鳴き、ギャラリーのオーナーが、終わる前に来れて良かったねと迎えてくれた。オーナーは白髪の素敵なおばあさまだ。

こちらの閑々居では、ビルの小さな一室ながら水屋もあって、茶道もできるようなちょっとしたお茶室の壁には棚が付いていて、その棚や、畳の上に置かれた机にお茶碗などの作品が並べられていた。

「もう片付けようかと思ってたの」と言ってオーナーの指す方を見ると器がこまごまと畳の上に広げられている。

ようやく最終日も終わりになったので自分がどれを買おうか迷ってるんだけど、この花瓶なんてどうかしら?と言うオーナー。

その花瓶は土のような質感のままの胴体に、口から肩の周り、胴を飛ばして足にはつるつるの釉薬と紫がつけられている。そしてオーナーが可愛いという緑色の蓋つきだ。

花瓶イメージ図

 

オーナーは飲み物を入れて出すのにも良いなあとにこにこして見せてくれた。

こうして畳の上で焼き物を見るとき、拝見の仕方が仕草に出るので茶道をやっていて良かったなと思う。

今回来た個展は、陶芸家の苧坂恒治さんの作陶展だ。

 

オーナー作のDM

じつは以前、函館に行ったとき、会いに行った方に苧坂さんの工房へ連れて行ってもらった縁があったのだ。

苧坂さんはお茶碗や湯呑み、コップやお皿をはじめ、ほかにもいろいろなものを焼き物で作っていて、その作品は一色ごとに何度も焼いて作る手書きの模様や絵が印象的だ。

今回の個展の作品では、年末でもうすぐお正月ということあるだろう。白に赤を基調とした配色のものや、山、太陽、鳥などおめでたい柄のものも多く、大皿などはとくに立派で素敵に見えた。


さらにオーナーは今回の展示では良いアイディアを思い付いたという。

前に、急いでいて電車のドアに挟んで焼き物を割った人があったので、包装用に林檎を包むアレを用意したそうだ。

「果物 包装」で検索して頼んだら、こんなに来たのよ、と言うので見ると、ソファの上にパッケージされた大量のその林檎の包みが乗っかっていた。

その包みに小さな湯のみを入れたりして見せてくれた。

プレゼント用に買われるお客さんには、これに包んでリボンで結んだりしたの、とオーナーは言う。

そんな不思議な見た目に包まれた器も、そう言うオーナーも可愛い。

例の花瓶も包んでみると、これまた素敵な面白さになって、それがぴったり入ったことにオーナーは喜んでいた。

 

 

 

 

ギャラリーの終わる時間もすっかり忘れて、オーナーはいろんな話をしてくれた。

聞いたうちでもいくつか印象的なエピソードがあった。

一つは、20年ほど前、オーナーのおじさんは80歳を過ぎたころになって、つるつるの頭を撫でながら、何でおじさんには髪の毛がないのかをぽつりぽつりと話しはじめたという。

それはおじさんが第二次世界大戦時、南京へ陸軍兵として行った時の話だった。

日本軍が攻め入った南京では死体が広がっていたが、戦車はその土地の死体の上を進んだのだと言う。おじさんの髪の毛がなくなったのは、その時の恐怖のためだった。そしてその時おじさんは気がおかしくなってしまい、暴れるので戦地から日本へ返され生き残ったそう。

昭和20年5月、東京で空襲があったときおじさんは家族を連れて青山の墓地へ逃げ、そのときに正気へ戻ったという。

というのが、おじさんが話してくれたつるつるのわけだったそう。

この話は南京への加害の記憶としても、また親しい人のエピソードとしても聞くことで印象に残るものなのだなと感じた。


もう一つは、今は70過ぎのオーナーが小学校に上がる前のお話。あるとき、友だちが「アップルパイ」を食べたんだと自慢したことがあった。「アップルパイ」を食べたことのなかった6歳くらいのオーナーは、こういう「アップルパイ」っていう食べ物を友だちが食べたんだという話を両親にしたところ、両親は自分の子がアップルパイを食べたこともなかったことに目を丸くして驚いたらしい。この話は、戦前と戦後の日本の経済的な落差を象徴している。

そういうわけで、親が買ってきてくれたアップルパイを食べたことはオーナーの思い出に深く残っているそうだ。


ほかにもオーナーはこうも話していた。

このギャラリーではほとんどは絵画を展示しているのだが、最近では、身近だったり個人的なことを題材にした作品が多いという。それは何を意味するかというと、曰く「日本では歴史観が育っていない」と。

ちょっと抽象的な言い回しだったが、自分の立ち位置にはどのような背景があり、あるいは歴史がつながっているのかを理解している人が少ない、という意味で言っていたのではないかと思う。

だから、オーナーから見るとそうした巨視的(社会的、歴史的)なテーマを持った作品が近ごろ少ないということらしい。

実際に、文学やアニメーション、漫画などストーリーのある作品は、主観的な問題が中心となって世界や物語が動くセカイ系と言われるジャンルが近年登場しているところを鑑みると、そうした傾向は絵画などの作品にも現れているのかもしれない。


ちなみにわたしが大学院生だと話すと、立派な学者になってねと応援してもらった。

「立派な学者」になるかはわからないが、とりあえず目の前にある修論のためには手を尽くすし、塾講師としての社会科の授業では、社会や歴史とのつながりを実感できるような教え方をもっとしていきたいと思っている。

 

 

 

 

他にもずいぶんと話を聞かせてもらっていたが、夜も遅くなったので帰ることにした。

さて、1階まで降りると、入ってきたビルの出入り口には格子状のシャッターが降ろされていた。

え……?

嘘でしょ、これはどうやって出るの……?

そういうわけで、クリスマスイブの新橋を人が忙しく歩くのを、閉じ込められた雑居ビルのシャッター越しに見つめながら、今日聞いたことや出会った人のに少しの間、思いを馳せていた。


と。さすがにこんなところで夜を明かす訳にはいかないので、オーナーのところまで戻ると、鍵を持ってきてシャッターを開けてくれた。防犯のために夜になると閉めるようになったそうな。


きっとわたしは今後アップルパイを食べるとき、オーナーと会ったこと、聞いたことを思い出すだろう。

そんなことを予感しながらわたしは無事に帰路に着いた。

 

 

 

 

予定がなければ失うものもない。

予定はなくても新しい出会いはある。

そんな2018年のクリスマスイブだった。


おわり。